歴代の芥川賞受賞作を読んでゆく

芥川賞作品を読んでゆくことにした理由

芥川賞作品を読んでゆく

これを自分に課すことにしました。理由はたいしたものじゃないんです。自分が今まで読んだことがない作家、読んだことがないテイストの本に触れてみたいと思ったんですね。

私は多読家ですが、読む本はいつも偏っています。気に入った作家、気に入ったテイストの本ばかりついつい読んでしまいます。それが悪いこととは言いませんが、たまには変化を求めても良いのかなと。

となると、自分の好みとは関係なく、別のテーマを決めてひたすら読み漁ってゆくという方法がよいのではないかと思ったわけです。そういうわけで「芥川賞作品を読む」マラソンです。とはいえ、案外すでに読んだことがある本もありましたので、再読も兼ねて取り組み中です。順次ご紹介してゆきましょう。

『僕って何』懐かしい昭和の感じ!懐かしい学生時代のあの感じ!そんな雰囲気に浸りたい時にピッタリの本。

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僕って何新装新版 [ 三田誠広 ]
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受賞年:1977年
著者:三田誠広

私が中学生の頃に出会って、繰り返し読んだ本です。三田誠広といえば『いちご同盟』という小説も有名ですね。私はこの『いちご同盟』を読んでから三田誠広の小説にはまり、この『僕って何』にたどり着きました。

芥川賞受賞作は、比較的小難しい小説が多いという印象を持っている方もいるかもしれませんが、この小説はとても平易です。何せ中学生の私がハマったくらいですから。

B派の中にも、全共闘の中にも、僕は自分の居場所を見つけだすことができなかった。この荷やっかいな”僕”というものを、いったいどこに運んでゆけばいいのだろう。(三田誠広『僕って何』より)

まだ何者でもない頃、「自分の居場所が無い」と感じたことのある方なら、心にギュッとくる小説だと思います。

『コンビニ人間』一見ほのぼのした日常系の話・・・と思いきや結構ゾッするような話。

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コンビニ人間 [ 村田沙耶香 ]
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受賞年:2016年
著者:村田沙耶香

主人公はマイペースに生きる独身女性。ガツガツしたところがなく、小説全体がほのぼのした物語のような雰囲気につつまれています。

しかし実際のところは、かなりゾッとするような話だと思いました。「自分とは何なのか」「感情とは何なのか」という問いを、正面から突きつけられます。

同じことで怒ると、店員の皆がうれしそうな顔をすると気が付いたのは、アルバイトを始めてすぐのことだった。店長がムカつくとか、夜勤の誰それがサボってるとか、怒りが持ち上がったときに協調すると、不思議な連帯感が生まれて、皆が私の怒りを喜んでくれる。泉さんと菅原さんの表情を見て、ああ、私は今、上手に「人間」ができているんだ、と安堵する。(村田沙耶香『コンビニ人間』より)

読後、私自身も、ひたすら「人間」をしようとしているだけなのではないか?自分の感情は、うまく作り出したものなのではないか?という疑念に包まれてしまいます。

『限りなく透明に近いブルー』読むのにはかなりエネルギーが必要!けれど自分の中で何かが変わる本。

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限りなく透明に近いブルー新装版 [ 村上龍 ]
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受賞年:1976年
著者:村上龍

かなり過激で高密度の小説です。1970年代に書かれたというのが本当に驚きです。私は村上龍の小説やエッセイはほとんど読んでいます。どこかのエッセイで「皆が口を揃えて言っているようなことは小説に書く必要がない」というようなことを言っていた気がします。

その時代を過ごす人が、必要とする言葉、飢えている言葉を提供してくれるという信頼感があります。

『限りなく透明に近いブルー』は、物語を通して、ずっと酩酊状態にあるような気分にひたることができます。初期のころの村上龍のテーマのひとつであった「快楽」をストイックに追及しています。

正直なところ、勧めている私自身も、気力が充実している時でないと読み切るのが大変ですが、非常にパンチの強い刺激が得られることは間違いありません。

『パークライフ』普通の人の日常にちょっと入り込む非日常・・・。静かで一定のトーンが心地よい、すっきりした一冊。

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パーク・ライフ [ 吉田修一 ]
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受賞年:2002年
著者:吉田修一

会社員の主人公が、ふとしたハプニングである女性と知り合い、定期的に会うようになります。会うといっても激しい恋愛をするようなこともなく、淡々を会話をするだけです。主人公はどこか醒めたような、世の中との距離感を感じているような男性で、物語全体が、日常を描いているにもかかわらずどこか非日常に近い雰囲気を出しています。私は吉田修一の本がもともと結構好きで、他にも『ランドマーク』『悪人』などがオススメです。そういえば最近『怒り』が大ヒットしましたね。

薄暗い階段を昇りきると、公園派出所の裏に出る。公衆便所脇の低い柵を跨ぎ、園内に入り込めば、地下鉄構内の空気とは違い、土や草いきれが鼻孔をくするぐる。園内ではなるべく俯いて歩くことにしている。遠くのものを見ないようにしながら、心字池を囲む雑木林の小路を足元だけを見つめて進み、イチョウ並木、小音楽堂を抜けて大噴水広場に入る。(吉田修一『パークライフ』より)

東京に住む人がいつも見ている景色の描写が丁寧で、高架の音やハトの羽音まで聞こえてくるような気分にさせます。街を散歩しているような感じ。私は、気分が沈みがちになると吉田修一の本を読みます。描写が綺麗なので疲れがとれるのかもしれません。

『苦役列車』とことんダメ人間の主人公!徹底した落ちぶれっぷりが、だんだん可愛く感じられてしまう不思議な本!癖になります。

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苦役列車 [ 西村賢太 ]
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受賞年:2010年
著者:西村賢太

ダメな感じの主人公、貫太がダメダメの日常を過ごします。ひょんなことから友人が出来たり、多少の変化はありますが、基本的にはダメダメなままの日々を過ごします。自分がダメだということを自覚していながら、とことん落ちぶれてゆく感じが、だんだん可愛く感じられてしまうので不思議です。もっと先が読みたい、貫太のその後を知りたい、と思ってしまいます。

曩時北町貫多の一日は、目が覚めるとまず廊下の突き当たりにある、年百年中糞臭い共同後架へと立ってゆくことから始まるのだった。(西村賢太『苦役列車』より

私は時々あるのですが、本の内容よりも文章自体、テイストが癖になる、ということがあります。この本はまさにそういう感じ。独特の、斜に構えた語り口調や、古風なような、少し崩したような文体に、なんともいえず惹きつけられます。西村賢太の他の小説も読んでみようと思っています。

『火花』日ごろなかなか感じることの難しい「希望」という概念をうまく表現したような小説です。

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火花 [ 又吉直樹 ]
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受賞年:2015年
著者:又吉直樹

大ヒット作なので、すでに読んだ方も多いのではないでしょうか。有名なお笑い芸人の又吉直樹(ピースというコンビのボケ担当)が書いた小説です。ヒットしてからしばらく、私はあえて読みませんでした。なんとなく、有名な芸能人が書いたので皆が読んでいるだけだろう、というような先入観があったからです。

しかしその先入観は良い意味で裏切られました。短い小説ですが、「希望」という概念を巧みに描き切っています。生きにくい世の中、生きにくい状況の中で、希望を持って、多少軽妙に構えながら生きてゆくたくましさのようなものを感じることができます。

「世間を無視することは、人に優しくないことなんです。それは、ほとんど面白くないことと同義なんです」(又吉直樹『火花』より)

これは、独自のお笑いを追及するだけしか頭にない師匠の神谷さんに対して、主人公の徳永が言うセリフです。「面白い」とは何か。真剣に追及し続ける話です。いま何かを目指して頑張っている人は、身につまされるような感じになるかも。

『終の住処』独特のモノローグの世界・・・一見平凡な主人公の中の不思議な内的世界が描かれています。好き嫌いが分かれるか。

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終の住処 [ 磯崎憲一郎 ]
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受賞年:2009年
著者:磯崎憲一郎

主人公は会社員、それもかなり優秀な会社員だと読み取れます。おそらくですが、男前で人付き合いも良い。どうしてこういう言い方になるかというと、ほとんど写実表現がない小説だからです。大部分がモノローグ(独白)で占められています。モノローグを読み進めるうちに、だんだんと輪郭が見えてくる、という感じです。
驚くべきことに、短い小説にもかかわらず、十年以上の月日が描かれています。にもかかわらず、あまり飛躍した感じを受けません。「ああ、時間ってこうやって流れてゆくんだなあ」という不思議な感慨につつまれました。

彼も、彼の同僚ももがき苦しんでいたが、上司もまた同じように絶望のなかで働いていた。この絶望は個々に見れば絶望でしかなかったが、全体として見れば大いなる楽観だった。日本経済が長い好景気に入るのはまだもう少し先のことだが、個々人の悩みは経済の好不調などとはまったく別の場所で生まれるべくして生まれ、それぞれに克服されていたのだ。(磯崎憲一郎『終の住処』より)

この本は、もうひとつ「結婚」というテーマを持っていますが、私はよく結論(?)が分かりませんでした。何度か読み返せば分かるのでしょうか。もう一度一通り読んでみようかと思います。

まだまだマラソンを続けます

こうやって今まで読んだことのない作家の本に触れてゆくのは、思った以上に面白いです。この著者の本をもっと読みたいと思うときもあれば、もうお腹いっぱいと思うときもあります。あるいは、読了後、ネットにある色々な人の書評と比べてみるもの一興です。

引き続き読んだ本はここにUPしてゆく予定です。

芥川賞作品は、小品が多いので、早ければ1~2時間で読み終わってしまいます。そういう意味では「読み漁る」のに適しているかもしれません。

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